業務外メモ@edy_choco_edy

IT企業で働くアニメ/ゲームプロデューサーの業務外メモ。書籍、インディーズゲーム、業界情勢について書いています。

「This Is the Police」に感じる「ニッチだけど買いたくなる小規模ゲーム」像

どうも @edy_choco_edy です。
本ブログも前回更新から数年経ちましたがせっかくなので徐々に復帰させようと思います。
引き続き、幸いなことにゲームアプリの開発を続けております。


今回はPCゲーム「This Is the Police」について。
http://store.steampowered.com/app/443810/agecheck?l=japanese


本作は「定年間際の警察署長になって、警察署をマネジメントして勇退を目指す」という大変渋いゲームです。
ジャンルでいうと「経営シミュレーション」✕「選択肢型アドベンチャー」でしょうか。


端的にいうと
▼警察署マネジメントパート
 ・警官(様々な事件に出動。とにかく頭数が必要)や刑事(主に重大事件にのみ出動)を雇用
 ・AシフトとBシフトに能力や頭数を考慮して配属
 ・市庁舎に向けて警官の増員や、サポートであるSWATの出動回数増加などを要請
  戦争モノでいえば、戦闘と戦闘の間の経営パート、ですね。


▼オペレーションパート
 ・本作の1番ゲーム的なところ。
 ・リアルタイムで発生する出動要請に、警官や刑事を派遣
   - 事件に対し、限られた人数のスタッフをどう派遣するかを考え、処理するパートです。
   - 例えば「不審者侵入」なら最大2名、「武装強盗」だと最大10名などの枠に
    何名を派遣するか、という判断。
    少ない人数を派遣したり、無能ばかりだと失敗し
    最悪の場合、警官が死亡したり、市民が死亡して市庁舎からの評価が下がったりします。
   - さらに面倒なのが「市庁舎」と「マフィア」の要請。
    「ちょっと警備の人数足りないから2人よこして」と電話がかかってきたりします。
    まあ、思いっきり癒着です。でも、田舎の警察っぽくてリアル。
    これに派遣できないと、それぞれからの評価が下がります。
    逆にマフィアのところに派遣した警官が
    「こんなことさせられるなら辞めるわ」といってきたり
    その裏で事件が起きて、結局手が回らなくなったり。


   刻一刻と変わる状況で、どこに誰を派遣するか、という行動だけで
   十分に「警察署長」をやっている気分になれます。
   (実際には指令室かなんかの仕事でしょうが、そこはご愛嬌で)

   おそらく、経営・戦略シミュ好きなら、かなり面白いパートだと思います。
   警官のパラメタやイベントによる増減のバランスは若干気になるところもありますが
   メインのゲームルールとしては十分面白いです。


▼ストーリーパート
 ・本筋のストーリーが進行します。
  マフィア同士の鞘当てだったり、連続殺人犯の登場だったり。
 ・ストーリー上の選択肢に加え、定期記者会見における記者への返答もあったりして、面白いパートです。
 ・それぞれ、オペレーションパートでの行動、成果によって分岐したりも。
   海外ドラマや刑事小説好きなら、それなりにあるあるな展開なのがまた楽しいパートです。



詳しくは各種レビュー記事(※)に譲りつつ
本稿ではゲーム開発者としての視点で感想を述べたいと思います。

※ご参考
警察署長ストラテジー『This Is the Police』初ゲームプレイトレイラー公開
http://www.gamespark.jp/article/2015/10/07/60781.html
面白いんですが、2ch含め、日本語情報が非常に少ない……


結論からいうと「このゲームの枠組みが、必要最小限なのに、万能過ぎる」という感想です。


ご存知の通り、世の中には「経営シミュレーションゲーム」という一大ジャンルがあります。
「テーマ○○○」や「○○○タイクーン」という呼称が確立する程度には、海外でも一定人気のあるジャンルです。


広義でいえば「神として信仰民を導く」というものから
おなじみの「市長になる」「遊園地づくりをする」というメジャーから
「物流を一手に担う」「農家になる」「刑務所長になって設計から囚人の飯の世話」まで
内容は多岐にわたります。大変ニッチな職業も混ざっているところを見るに
「ある職業(や企業)を体験したり、運営してみたい」という憧れがあるところ
ゲーム化の余地あり、ということだと思います。


本作「This Is the Police」がすごいのは
非常にシンプルなつくり(基本的には繰り返し)にも関わらず
「どんなニッチな職業・企業でも、この枠組みなら(なりきりとしては)十分面白くなりそう」と思わせるところです。


なお、誤解を避けるためいえば「パーフェクト」ということではありません。
必要最小限、十分に面白い、というゲームをつくることができそうだ、ということです。


いかんせん、経営シミュレーションゲームを開発しよう、となれば
「やっぱり施設建設を充実させたい」とか「この職業ならこの行動は必須だ」
と、夢を広げてしまうところですが
本作を遊んでいると「これで(なりきり体感ゲームとしては)十分だな」と思えるところが素敵なところです。


つまるところ、経営シミュレーションゲームの本質が
・リソースによる事前準備
・リアルタイムでの事案への対処
・それによるストーリーの(具体的もしくはプレイヤーの妄想としての)進行、リソース獲得
の繰り返しであり、本作がそれを、ほぼ必要最小限といってもいい枠組みで満たしている、ということだと思います。


けしてグラフィックが派手なわけでも
ものすごい特別な「シミュレーション」が行われているわけでなくても
十分に「警察署長」をやっている気分になれる。
となれば「警察署長」を以下のものに置き換えても、十分面白そうだなあ、と妄想できるし
また、つくってみたいなあ、と思えてしまうところに、大きな魅力があります。
※そういう意味で入国審査官になる「Paper,Please」とかとても面白いのですがこの枠組で、すぐに別のゲームをやりたくなるか、と言われると、ちょっと悩ましいところです。


(妄想例)
第二次世界大戦末期のドイツ軍の、とある都市の防衛司令官
 - 偵察報告や怪しげなメモの通告から、部下の士官(と部隊)をどこに送るか捌き続ける
 - 総統府(だんだんと指示がおかしくなる)、市庁舎(物資などの供給元)、赤軍シンパのレジスタンス(敵だが、降伏時や戦後処理の際の自分の身の安全のため重要)とどう付き合うかも重要。
パンデミック(伝染病の爆発的感染)の起きた世界での、とある国の感染対策責任者
 - 戦略級でも戦術級でも。国連や各国の保健相、CDCの連絡などから、部下をどこに送るか捌き続ける
 - 国連(動きが遅い)、CDC(指示は的確だがアメリカ第一)、多国籍の巨大製薬企業(超頼りになるが倫理的に怪しく、ぶっちゃけ癒着)とどう付き合うか
・ウェブメディアの編集長
 - 様々なタレコミから、ライターやカメラマンをどこに送るか捌き続け(以下略)
・X-COMっぽい宇宙人襲来
 - レーダー情報や週刊誌情報から、隊員をどこに送るか(以下略)
・なろう系
 - 全略。まあ、ほぼ皆さまの想像通りです。


……と、もとが優れている分、妄想はいくらでもできるわけですが、それがまた、重ねてになりますが本作の素晴らしいところだと思います。
そしてまた、自分レベルの(ちょっとした)経営シミュレーション好きが妄想してわくわくする、ということは
世界レベルにすれば、それなりの方々が潜在的な購買層として存在していると思います。


特に海外ドラマ(特にアメリカ)における「本格職業モノ」というのは根強いものがあります。
本作は『必ずしもゲーマーじゃなくても納得して遊べるレベルのゲーム性』というバランスも満たしている印象で
となると、そのときの流行りによって幅広い打ち出し方もありそうだな、と思ったり。


警察モノについては、もはや説明不要かと思いますが
「ER」のような医療モノ、「ホワイト・カラー」のような法律・リーガル物や
サード・ウォッチ」や「シカゴ・ファイア」のような911(消防救急)物などはすぐにでも応用できそうです。
「ウェストウィング(日本ではホワイトハウス)」や「ハウス・オブ・カード」のような政治でも、時間軸を工夫すれば行けそうです。
※余談ですが911モノならば「911 Operator」という期待作もあります。
ただ、こちらは「ストーリーパート」がやや弱そうなので、「This Is the Police」との比較で言えばかなりゲーム寄りです。



「ニッチだけど買いたくなる小規模ゲーム」というのは様々なアプローチがあると思いますが
まさしく、本作のような「枠組みとして最低限のものを満たしている」という感覚は
購買者の求めるものと、開発者として「実際に開発しきれる」もののバランスを考える上では非常に重要だと感じます。
そしてまた「似たようなゲームをもっと遊びたくなる」という需要を掘り当てることができれば、商業的にも素晴らしいことだと思います。誤解のないようにいえば「どんどん横展開できるようなものをつくろう」ということではなく、それくらい「最低限必要なギミックで、人を満足させる、需要を刺せるというのは素晴らしいな」、と。


インディーズゲームの最新流行などは自分もまだまだ不勉強なのですが
本作には大きな魅力を感じましたし、ビジネス的な可能性も感じました。


本作の開発元は、なんとベラルーシミンスクにあるインディーズデベロッパーとのこと。
weappy-studio
http://weappy-studio.com/
突然の横展開や版権展開、とはいかないと思いますが、今後が楽しみです。


というか、どこかのパブリッシャーが目をつけてブランド化したりとか、ないですかねえ。
「This Is the Police ツクール」とか、超欲しい。いや、マジで。
いつかベラルーシに行くときは、彼らを訪問する、という楽しみができました。今後にも期待です。